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徳島地方裁判所 昭和59年(ワ)100号 判決

原告 鎌田萬寿雄

〈ほか一三名〉

右一四名訴訟代理人弁護士 畑山實

同 斉藤義雄

同 管野兼吉

同 尾崎俊之

同 斉藤一好

同 山本孝

同 豊田誠

同 鈴木堯博

同 清水洋二

同 朝倉正幸

同 入倉卓志

同 小川芙美子

同 城口順二

同 管野悦子

同 白川博清

同 田中健一郎

同 中村雅人

同 犀川千代子

同 宮田学

同 村野守義

同 田中峯子

被告 藍住町

右代表者町長 久次米圭一郎

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 中西一宏

主文

一  (1)被告藍住町は原告前田常晴に対し金一四三万九二〇〇円、同木内明に対し一三七万九二〇〇円、同濱利一に対し金一〇万五五〇〇円、(2)被告藍住町土地開発公社は原告小島豊に対し金一三万九五〇〇円、同徳川道泰に対し金一〇二万〇一〇〇円、(3)被告財団法人藍住町教育施設整備公社は原告鎌田萬寿雄に対し金五六万六三〇〇円、同小原ハルノに対し金八五万五四〇〇円、同森亮三郎に対し金二八五万八七〇〇円、同河野武由に対し金一七万四一〇〇円、同山田龍治に対し金二四万四八〇〇円、同森田孝夫に対し金四四万六四〇〇円、同山田理一に対し金二六万〇七〇〇円、同南條広次に対し金四一万五一〇〇円、同前野貞夫に対し金四四万一二〇〇円及び各金員に対する昭和五九年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの右当該被告に対するその余の請求及び被告久次米圭一郎に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれに九分し、その一を原告の負担とし、その余を被告藍住町、同藍住町土地開発公社、同財団法人藍住町教育施設整備公社の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  (一)被告藍住町は原告前田常晴に対し金一五八万三一二〇円、同木内明に対し金一五一万七一二〇円、同濱利一に対し金一一万六〇五〇円、(二)被告藍住町土地開発公社は原告小島豊に対し金一五万三四五〇円、同徳川道泰に対し金一一二万二一一〇円、(三)被告財団法人教育施設整備公社は原告鎌田萬寿雄に対し金六二万二九三〇円、同小原ハルノに対し金九四万〇九四〇円、同森亮三郎に対し金三一四万四五七〇円、同河野武由に対し金一九万一五一〇円、同山田龍治に対し金二六万九二八〇円、同森田孝夫に対し金四九万一〇四〇円、同山田理一に対し金二八万六七七〇円、同南條広次に対し金四五万六六一〇円、同前野貞夫に対し金四八万五三二〇円及び各金員に対する昭和五九年四月一二日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

2  被告久次米圭一郎は原告らのために藍住町発行の「広報あいずみ」に別紙記載の謝罪広告を掲載せよ。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはいずれも徳島県板野郡藍住町若しくは隣接の同郡板野町に居住する者である。被告藍住町(以下「被告町」という。)は普通地方公共団体であり、被告藍住町土地開発公社(以下「被告土地開発公社」という。)は被告町が必要とする公共用地、公用地等の取得・管理・処分等を行うことにより地域の秩序ある整備と住民福祉の増進に寄与することを目的として設立された特殊法人であり、被告財団法人教育施設整備公社(以下「被告教育施設整備公社」という。)は被告町の教育施設の整備に協力するため、学校・校舎等の建設及び譲渡を行い、もって町の教育環境の改善に寄与することを目的として設立された法人である。被告久次米圭一郎(以下「被告久次米」という。)は昭和五八年四月藍住町町長に就任し、現在もその職にある者である。

2  原告らは、被告町の求めに応じて、後記のとおり、その所有地を公共用地に供するため、被告町、同土地開発公社若しくは同教育施設整備公社(以下、これらの三者を称して「被告町等」という。)に売り渡したのであるが、その売買においては、代金について具体的な金額の取決めはしないで、売主の代金手取額のみを定めた。ここに代金手取額というのは、売買代金から売買に伴い売主に賦課される一切の公租公課相当額(譲渡所得税、県民税、町民税、国民健康保険料)と契約に必要な諸費用(測量、鑑定、分合筆手続費用、登記申請手数料)を差し引いた、実際に売主の手許に残る金額のことであり、右売買においては、公租公課相当額と契約諸費用は買主がその一切を負担し、売主は負担しないことが契約の内容として合意されたものである。このような約定が結ばれたのは、公共事業の用に供するためにした土地の譲渡所得には課税上一定限度までの特別控除が認められるが、限度を超えて広い土地を売却した場合、公共事業により多く協力したにもかかわらず、超過部分については課税上の特典が受けられず、そのため土地所有者が広い土地の売却を渋り、買収が困難となるからである。そこで、右超過部分に賦課される公租公課相当額等を買主が負担することにして、買収の対象となる土地は、広いか狭いか、道路沿いにあるか奥まっているかなどにかかわりなく、すべて単位面積(一反歩)当りの売主の代金手取額を同じにし、一度に多数の土地所有者から広い土地を買収することを容易にしたものである。このような約定のもとに、原告らが被告町等との間でした売買は次のとおりである。

(一) 原告前田常晴は被告町に対し、昭和五二年一一月一二日別紙物件目録記載の一から四までの土地を、昭和五六年五月八日同目録記載五の土地を代金手取額合計四三三四万四〇〇〇円で売り渡した。

(二) 原告木内明は昭和五三年一一月一二日被告町に対し同目録記載六から一〇までの土地を代金手取額合計五八五四万八〇〇〇円で売り渡した。

(三) 亡濱圓次郎は昭和五七年一〇月一五日被告町に対し同目録記載一一、一二の土地を代金手取額合計三四七九万三五五〇円で売り渡した。

(四) 原告小島豊は昭和五六年六月二三日被告土地開発公社に対し同目録記載一三の土地を代金手取額三五九〇万円で売り渡した。

(五) 原告徳川道泰は昭和五五年一一月一〇日被告土地開発公社に対し同目録記載一四から一七までの土地を代金手取額合計四〇九二万円で売り渡した。

(六) 原告鎌田萬寿雄は昭和五五年六月三〇日被告教育施設整備公社に対し同目録記載一八の土地を代金手取額二九六六万五六五七円で売り渡した。

(七) 原告小原ハルノは右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載一九、二〇の土地を代金手取額合計三六五七万二二五〇円で売り渡した。

(八) 原告森亮三郎は右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二一、二二の土地を代金手取額合計六三八六万六九八六円で売り渡した。

(九) 原告河野武由は右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二三の土地を代金手取額三五九一万七四二七円で売り渡した。

(一〇) 原告山田龍治は右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二四の土地を代金手取額二二〇六万二六九八円で売り渡した。

(一一) 原告森田孝夫は右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二五、二六の土地を代金手取額合計二六四九万九四三八円で売り渡した。

(一二) 原告山田理一は右同日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二七、二八の土地を代金手取額合計二二三八万五〇〇〇円で売り渡した。

(一三) 原告南條広次は昭和五六年一月三〇日被告教育施設整備公社に対し同目録記載二九の土地を代金手取額二五七九万八四八〇円で売り渡した。

(一四) 原告前野貞夫は同年二月一〇日被告教育施設整備公社に対し同目録記載三〇、三一の土地を代金手取額合計二四三五万七八五〇円で売り渡した。

3  ところで、右各売買に伴う譲渡所得税の納税申告は事実上買主である当該各被告が売主に代って行ったものであるが、この場合、それぞれの売買における代金額は代金手取額に、買主が負担することになっている公租公課相当額及び契約諸費用を加えた金額とすべきであるのに、代金手取額を売買代金として申告しこれから算出される譲渡所得税を被告町等において売主に代って納付したところ、原告らは後に鳴門税務署長から譲渡所得に申告漏れがあったとして追徴税の支払いを迫られ、やむなく昭和五九年三月八日次のとおりの金額を納付した。これは被告町等が前記約定の本旨に従った完全な債務の履行をしなかったため原告らに生じた損害である。

(一) 原告前田常晴は前記一から四までの土地の分として本税五二万五〇〇〇円、加算税五万二五〇〇円、延滞税一四万〇四〇〇円の合計七一万七九〇〇円、同五の土地の分として本税五八万六六〇〇円、加算税五万八六〇〇円、延滞税七万六一〇〇円の合計七二万一三〇〇円、合わせて一四三万九二〇〇円。

(二) 原告木内明は本税一一八万四八〇〇円、加算税五万九二〇〇円、延滞税一三万五二〇〇円の合計一三七万九二〇〇円。

(三) 亡濱圓次郎は本税九万七二〇〇円、延滞税八三〇〇円の合計一〇万五五〇〇円。

(四) 原告小島豊は本税一二万一六〇〇円、加算税六〇〇〇円、延滞税一万一九〇〇円の合計一三万九五〇〇円。

(五) 原告徳川道泰は本税八八万〇六〇〇円、加算税四万四〇〇〇円、延滞税九万五五〇〇円の合計一〇二万〇一〇〇円。

(六) 原告鎌田萬寿雄は本税四八万七〇〇〇円、加算税二万四三〇〇円、延滞税五万五〇〇〇円の合計五六万六三〇〇円。

(七) 原告小原ハルノは本税七三万九八〇〇円、加算税三万六九〇〇円、延滞税七万八七〇〇円の合計八五万五四〇〇円。

(八) 原告森亮三郎は本税二四八万八〇〇〇円、加算税一二万四四〇〇円、延滞税二四万六三〇〇円の合計二八五万八七〇〇円。

(九) 原告河野武由は本税一五万六六〇〇円、延滞税一万七五〇〇円の合計一七万四一〇〇円。

(一〇) 原告山田龍治は本税二一万一八〇〇円、加算税一万〇五〇〇円、延滞税二万二五〇〇円の合計二四万四八〇〇円。

(一一) 原告森田孝夫は本税三八万八六〇〇円、加算税一万九四〇〇円、延滞税三万八四〇〇円の合計四四万六四〇〇円。

(一二) 原告山田理一は本税二二万五四〇〇円、加算税一万一二〇〇円、延滞税二万四一〇〇円の合計二六万〇七〇〇円。

(一三) 原告南條広次は本税三六万一四〇〇円、加算税一万八〇〇〇円、延滞税三万五七〇〇円の合計四一万五一〇〇円。

(一四) 原告前野貞夫は本税三八万四〇〇〇円、加算税一万九二〇〇円、延滞税三万八〇〇〇円の合計四四万一二〇〇円。

4  原告らは被告町等の債務不履行により本訴の提起を余儀なくされ、事案の性質上弁護士に訴訟を依頼せざるをえなかったところ、その報酬は前記損害額の一割が相当である。

5  被告久次米は、原告らと被告町等との間で前記各売買がされた後の昭和五八年四月、藍住町の町長に就任したのであるが、その第一六八回町議会定例会二日目の同年九月二一日、議場で、右各売買につき被告町等が売主に賦課される譲渡所得税を負担したことについて「土地開発公社及び教育施設整備公社の公金を以て、町民の方の個人的な税金の支払いにあてておるというような事実がございます。」、「おそらくは一〇件近い個人の税金、これは所得税であろうかとおもいますが、土地買収益にかかる所得税ではなかろうかと思われるものにつきまして、町が一旦一般会計から支払いをしてあげておる。しかるのちに、三か月後に公社の方から一般会計への支払いをしておるとこういうような実態があるわけなんです。」、「この公社の公金をもって町自ら直接銀行の方に対しまして個人の税金を払い込んで、いわば立替え払いをいたしておるということは、これは事実であります。」等の発言をした。右発言は事前に定例会で町長による爆弾発言があるとの情報が流され、報道関係者がつめかけた中で行われたものであり、議会終了後も被告久次米は報道関係者に同様の発言をしたため、このことは新聞、テレビ、ラジナ等で大きく取り上げられ報道された。右発言は「被告町等が町民の税金を代って負担したのは公金の不正使用であり、支払いをしてもらった町民は不当な利益を得た、けしからん奴だ。」との印象を与えるもので、原告らの氏名を具体的には挙げていないけれども、狭い町の中のことでありこれに該当するのが原告らであることは町民には容易に分かるものであった。原告らはいずれも藍住町あるいは隣接の板野町に長年居住していて、売却した土地に対して強い愛着をもっており、これを処分する意図も経済的な必要もなかったのであるが、町当局から公共用地又はその代替地として利用するからとの強い要請を受けたため、町の発展のためにやむなく買収に応じただけであり、そこに何の不正もなかったにもかかわらず、被告久次米の右発言により藍住町の町民から非難を受け、その名誉・信用を著しく毀損され多大の精神的苦痛を受けた。被告町等が譲渡所得税を負担した経緯については、同被告は、本件土地を買収した当時の総務課長高橋文弘や税務課長佐野隆男らから事情を聞いて十分に知っていたのであるから、名誉毀損につき同被告には故意があるし、そうでないとしても予め十分な調査をすれば真相が分ったのにそれをしなかった点で少なくとも過失がある。そこで、被告久次米は、原告らの毀損された名誉を回復するための措置をとるべきであり、その方法は請求の趣旨2の謝罪広告をするのが最適である。

6  亡濱圓次郎は昭和五九年五月一三日死亡し、同人の財産はすべて次男の原告濱利一が相続した。

よって、原告らは、被告町等に対しそれぞれ債務不履行に基づく損害賠償として前記当該各追徴税納付額及びその一割に相当する弁護士費用の合計額並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五九年四月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金として請求の趣旨1記載の金員の支払を、被告久次米に対し同2記載の謝罪広告の掲載を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、次の(一)ないし(三)を除いて原告らと被告町等との間で原告ら主張の各土地売買をしたことは認めるが、その代金について原告ら主張の約定をしたことは否認する。

(一) 原告前田常晴が別紙物件目録記載一から四までの土地を被告町に売り渡したのは昭和五三年一一月一二日であり、この売買の対象には同目録記載五の土地は含まれていなかった。

(二) 同目録記載七から一〇までの土地の売主は原告木内明ではなく、同七から九までの土地の売主は木内幸次郎、同一〇の土地の売主は木内鍋助である。

(三) 原告徳川道泰が売り渡した同目録記載一四から一七までの土地の代金が四〇九二万円であることは争う。

原告ら主張の各売買における代金額は右(三)の点を別としてその他は原告らが代金手取額と主張している金額そのものである。もっとも、売主が納付すべき譲渡所得税を被告町等が原告ら主張の限度で負担したことは事実であるが、それが売買代金に含まれるものとすれば予算中の用地取得費から支出されるべきであるのに、実際には補償費の名目で支出している(しかも、なかには原告前田常晴、同木内明、亡濱圓次郎、原告徳川道泰、同森田孝夫についてのように買主でない被告が支出しているものもある。)ことからみると、被告町等による右譲渡所得税の負担は売買契約とは別個の密約によってされたというほかはない。そうすると、このような約定は本来所得のあった者が納税をするという課税原則に反するもので、法律上許されないはずのものであり、地方自治体の首長その他の職員にこのような約定をする権限のないことは原告らにおいて知り得べき事柄であるから、右約定は不能な契約若しくは権限のない者によってされたものとして無効である。

また、このような約定がまかり通ることになれば、(1)所得のあった者がその所得につき法律に定められた租税を納めるという租税体系、あるいは課税の公平という基本理念が全く崩れ去ってしまうこと、(2)地方自治法に定める歳入歳出に関する規定を無視した支出を追認する結果となり、理事者と住民が結託して約定さえ結べば地方自治法の規定を空文化し無秩序な地方行政を執行することが可能になる虞れがあること、(3)このような約定が有効との判決があれば、公共事業における用地買収に際して住民が同様の約定の締結を要求する場合が増加し、地方公共団体においてもこれを拒む理由がなくなり慣行化する虞れがあることなどの弊害が考えられる。したがって、このような約定は公序良俗に反し無効というべきである。

右のような約定が成立したことについては被告町等にも責任があることを認めるにやぶさかではないが、被告町等はその反省と誤った行政運営の是正への意欲をもってこの裁判に対処しているものである。

3  同3の事実のうち、原告らによる追徴税の納付の事実は不知、これが被告町等の債務不履行による損害であるとの主張は争う。原告らは、納税手続につき被告町等と協議しまたはその協力を得たかもしれないが、手続自体は自らの手で行ったものであり、譲渡所得税を被告町等に負担してもらったことが税務署に発覚したため追徴税を支払わねばならなくなったのである。この点で原告らには見込み違いがあったわけであるが、右追徴税相当額を被告町等が負担すべきいわれはない。

4  同4の主張は争う。

5  同5の事実のうち被告久次米が町議会で原告ら主張の発言をしたことは認めるが、これが原告らの名誉を毀損したことは争う。

第一六八回藍住町議会定例会第二日目において、被告土地開発公社の経理内容について、或る議員から前任町長からの事務引継ができているかどうか、他の議員から公社経理につきデマ、中傷が飛んでいるとの質問、発言があった。そこで、被告久次米は、町長として、公社経理の帳簿書類等が不備であり、当時の担当者が退任していて経理内容が十分掌握されていない旨の答弁をし、その例として「土地開発公社及び教育施設整備公社の公金をもって個人的な税金の支払いに充てているという事実がある。」ことを指摘し、この詳細や経理処理が妥当かどうか時間をかけて納得のいくまで承知したい旨の発言をした。その際、税金の肩代わりをしてもらった者の氏名を公表するよう迫られたが、これには応じなかった。右の経過からも明らかなとおり、被告久次米は、より一層経理内容を掌握すべく努力したいという趣旨で、議員からの質問に対し職務の範囲内で必要なことを答弁したに過ぎず、何ら違法な行為をしたものではない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告ら、被告町、同土地開発公社、同教育施設整備公社及び同久次米の地位、相互関係等についての請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  徳島県板野郡藍住町(被告町)は昭和三〇年四月二九日、同郡藍園村と同郡住吉村とが町村合併促進法に基づき合併して誕生した普通地方公共団体である。同町は徳島県の県都・徳島市の北側に隣接し、かつては純然たる農村であったが、人口の都市集中化傾向に伴い、徳島市のベットタウンとしての市街地化が進み、昭和四五年ごろから人口が急激に増加した。これに伴い、被告町では小、中学校等の教育施設の拡充、ごみ、し尿処理場の新、増設、道路、排水路の整備等の公共事業の必要に迫られ、その用地に当てるため町内若しくは近接町村の土地所有者から多くの土地を買収していった。

2  被告町の町長は被告久次米の前任者が山本勇、その前任者は徳元四郎であったところ、被告町では、徳元町長の時代から、用地買収をするに当っては土地所有者に対し代金手取額を提示して買収交渉を進め、これによって売買契約を結んでいた。ここに代金手取額というのは、売買代金から売買に伴い売主に賦課される公租公課相当額(譲渡所得税、県民税、町民税、国民健康保険料)と契約に必要な測量、鑑定、登記等の諸費用を差し引いた、売主の実質収入となる金額のことであり、したがって、代金手取額によって売買契約を結ぶということは、売買に伴い売主に賦課される公租公課及び契約諸費用は買主がその一切を負担し、売主は負担しないという趣旨にほかならない。被告町が公共用地の買収について右のような方式を採用したのは、公共事業の施行のため国又は地方公共団体に土地を売り渡した場合、租税特別措置法により譲渡所得税につき課税上、優遇措置が受けられるのは一定の金額(現行三〇〇〇万円)の限度までであって(同法第三三条の四)、これを超える分については優遇措置が受けられないため、土地所有者が右の限度を超えての土地売渡しを渋る傾向があり、そうすると、同一人から右の限度を超えた広い土地の買収が困難となるため、買主である被告町等が、売買に伴い売主に賦課される公租公課相当額及び契約諸費用の一切を負担し、一つの事業目的に供される土地については、各筆ごとの土地の面積の大小、所在位置、地形等にかかわりなく、単位面積当りの代金手取額を同一にして、土地所有者間に不平等感を生じさせないようにし、土地買収を容易にしようとしたものである。

3  こうして、原告らは被告町等に対し、次のとおり、被告町が施行する公共事業の用に供するために、その所有の土地を売り渡した。

(一)  原告前田常晴は塵芥処理施設建設用地として、昭和五三年一一月一二日別紙物件目録記載一から四までの土地を、昭和五六年五月八日同目録記載五の土地を、代金手取額合計四三三四万四〇〇〇円で被告町に売り渡し(なお、《証拠省略》中には売渡物件として右五の土地が記載されていないが、《証拠省略》を併せると、右五の土地の売渡しの事実が認められ、これに反する証拠はない。)、これに伴う譲渡所得税合計五三二万三八〇〇円は被告教育施設整備公社の会計から補償費名目で支出された。

(二)  原告木内明は塵芥処理施設建設用地として、昭和五三年一一月一二日同目録記載六、七、九の土地を、昭和五四年四月二日同目録記載八、一〇の土地を、被告町に代金手取額合計五八五四万八〇〇〇円で売り渡した。右売買の売主名義は、右六、八の土地については右原告、同七、九の土地については木内幸次郎、同一〇の土地については木内鍋助となっているが、木内幸次郎は右原告の父で、昭和三九年九月四日死亡し、木内鍋助は幸次郎の伯父で、同年一一月二八日死亡し、いずれも右原告がその財産を相続していたので、右売買はすべて同原告がしたものであり、これに伴う譲渡所得税合計六二三万五九〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(三)  亡濱圓次郎は多目的集会所用地として、昭和五七年一〇月一五日同目録記載一一、一二の土地を被告町に代金手取額合計三四七九万三五五〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税五一万一六〇〇円は同被告の会計から用地購入に伴う補償費名目で支出された。

(四)  原告小島豊は城跡公園用地として、昭和五六年六月二三日同目録記載一三の土地を被告土地開発公社に代金手取額三五九〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税六三万九六〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(五)  原告徳川道泰は中央クリーンステーション(し尿処理施設)用地として、昭和五五年一一月一〇日同目録記載一四から一七までの土地を被告土地開発公社に代金手取額合計四〇九二万円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税四六三万四二〇〇円は被告町の会計から用地購入代金等の名目で支出された。

(六)  原告鎌田萬寿雄は中学校校舎新増築用地の替地として、昭和五五年六月三〇日同目録記載一八の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額二九六六万五六五七円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税二五六万二四〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(七)  原告小原ハルノは中学校校舎新増築用地の替地として、右同日同目録記載一九、二〇の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額合計三六五七万二二五〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税三八九万三八〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(八)  原告森亮三郎は中学校校舎新増築用地の替地として、右同日同目録記載二一、二二の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額合計六三八六万六九八六円(この代金は同原告が代りに売渡しを受けた別の土地代金と相殺され、現実には残高の四九六二万六九八六円が支払われた。)で売り渡し、これに伴う譲渡所得税九五二万三四〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(九)  原告河野武由は中学校校舎新増築用地として、右同日同目録記載二三の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額三五九一万七四二七円(この代金は同原告が代りに売渡しを受けた別の土地代金と相殺され、現実には残高の六二五万一七七〇円が支払われた。)で売り渡し、これに伴う譲渡所得税八二万四二〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(一〇)  原告山田龍治は中学校校舎新増築用地の替地として、右同日同目録記載二四の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額二二〇六万二六九八円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税一一一万四六〇〇円は同被告の会計から支出された。

(一一)  原告森田孝夫は中学校校舎新増築用地の替地として、右同日同目録記載二五、二六の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額合計二六四九万九四三八円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税二〇三万四八〇〇円は被告町の会計から用地購入代金等の名目で支出された。

(一二)  原告山田理一は中学校校舎新増築用地の替地として、右同日同目録記載二七、二八の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額合計二二三八万五〇〇〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税一一八万六四〇〇円は同被告の会計から補償費名目で支出された。

(一三)  原告南條広次は小学校校舎新築用地の替地として、昭和五六年一月三〇日同目録記載二九の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額二五七九万八四八〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税一九〇万一六〇〇円は同被告の会計から支出された。

(一四)  原告前野貞夫は小学校校舎新築用地の替地として、同年二月一〇日同目録記載三〇の土地を、同年三月二五日同記載三一の土地を被告教育施設整備公社に代金手取額合計二四三五万七八五〇円で売り渡し、これに伴う譲渡所得税一五三万一九〇〇円(ただし、同目録記載三〇の土地分)が昭和五七年三月に、譲渡所得にかかる町県民税四八万八三四〇円が昭和五七年七月一〇日にそれぞれ同被告の会計から補償費名目で支出された。

4  右のように被告町等の会計から支出された譲渡所得税は、実際には次のようにして税務当局に納付されていた。すなわち、公共事業の用に供するために用地を買収すると、被告町等は、所轄税務署にその旨を通知し、税務署からは納税申告の時期に職員が税務相談を兼ねた申告受理のため地元に出向いて来た。その場には売主のほか、被告町の総務課の職員が立ち会い、税務署職員は、求められる税務相談に応じたうえ、被告町等が発付した買取証明書に基づいて、本人に代って納税申告書を作成し、記載事項に誤りがないことを本人に確認させたうえ、署名押印を求め、これによって譲渡所得税の申告を受理した。税務署から納付書が送付されると、売主はこれを買主である被告町等に提出し、被告町等はその会計から補償費等の名目で所要の資金を支出し、売主に代って譲渡所得税を納付していた。ただし、原告南條広次については、他の所得に対する租税も同時に納付しなければならなかったので、右譲渡所得税納付のための金員は、被告教育施設整備公社から同原告の銀行預金口座に振り込まれ、直接本人に支払われた。

ところで、前記のように、代金手取額をもって売買をした場合、その代金額は、右代金手取額に、本来であれば売主が負担すべきはずの公租公課相当額及び契約諸費用を加えたものであり、納税申告においては右合計額をもって代金額とされなければならないものである。それにもかかわらず、被告町等が発付した買取証明書には買取価額として右代金手取額が記載されていたため、税務当局はこれが代金額であると判断し、これをもとにして譲渡所得税額を決定した。そのため、原告らに対して賦課された譲渡所得税額は、右合計額をもとにした場合よりも低額となったことはいうまでもない。このことについて、原告らは、納税申告の段階で、被告町等から買取証明書を交付され、これに従って申告をするよう指導されたので、深く思いをいたすこともなかった。しかし、被告町等は、右のようにすることによって譲渡所得税が低額となり、自らの負担が軽くなることを知悉しており、用地買収費用を低く抑えようとの意図から、あえて、売主である原告らに右のような納税申告をさせたものである。

5  しかしながら、このことは、後に、町議会における議員の質問に対する被告久次米の町長としての後記答弁が契機となって税務当局に発覚し、当局は改めて原告らの譲渡所得を調査し申告漏れがあったとして追徴税の納付を督促した。そこで、原告らは、被告町等にこれを納付してくれるよう求めたが、拒絶されたため、やむなく昭和五九年三月八日次のとおりの金額を自らの負担で納付した。

(一)  原告前田常晴は別紙物件目録記載一から四までの土地の分として本税五二万五〇〇〇円、加算税五万二五〇〇円、延滞税一四万〇四〇〇円の合計七一万七九〇〇円、同目録記載五の土地の分として本税五八万六六〇〇円、加算税五万八六〇〇円、延滞税七万六一〇〇円の合計七二万一三〇〇円、合わせて一四三万九二〇〇円。

(二)  原告木内明は本税一一八万四八〇〇円、加算税五万九二〇〇円、延滞税一三万五二〇〇円の合計一三七万九二〇〇円。

(三)  亡濱圓次郎は本税九万七二〇〇円、延滞税八三〇〇円の合計一〇万五五〇〇円。

(四)  原告小島豊は本税一二万一六〇〇円、加算税六〇〇〇円、延滞税一万一九〇〇円の合計一三万九五〇〇円。

(五)  原告徳川道泰は本税八八万〇六〇〇円、加算税四万四〇〇〇円、延滞税九万五五〇〇円の合計一〇二万〇一〇〇円。

(六)  原告鎌田萬寿雄は本税四八万七〇〇〇円、加算税二万四三〇〇円、延滞税五万五〇〇〇円の合計五六万六三〇〇円。

(七)  原告小原ハルノは本税七三万九八〇〇円、加算税三万六九〇〇円、延滞税七万八七〇〇円の合計八五万五四〇〇円。

(八)  原告森亮三郎は本税二四八万八〇〇〇円、加算税一二万四四〇〇円、延滞税二四万六三〇〇円の合計二八五万八七〇〇円。

(九)  原告河野武由は本税一五万六六〇〇円、延滞税一万七五〇〇円の合計一七万四一〇〇円。

(一〇)  原告山田龍治は本税二一万一八〇〇円、加算税一万〇五〇〇円、延滞税二万二五〇〇円の合計二四万四八〇〇円。

(一一)  原告森田孝夫は本税三八万八六〇〇円、加算税一万九四〇〇円、延滞税三万八四〇〇円の合計四四万六四〇〇円。

(一二)  原告山田理一は本税二二万五四〇〇円、加算税一万一二〇〇円、延滞税二万四一〇〇円の合計二六万〇七〇〇円。

(一三)  原告南條広次は本税三六万一四〇〇円、加算税一万八〇〇〇円、延滞税三万五七〇〇円の合計四一万五一〇〇円。

(一四)  原告前野貞夫は本税三八万四〇〇〇円、加算税一万九二〇〇円、延滞税三万八〇〇〇円の合計四四万一二〇〇円。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実によれば、被告町等は、原告らとの間で代金手取額をもって前記当該各売買をしたのであるから、契約上、原告らに対し、売買に伴い売主である原告らに賦課される譲渡所得税を売主に代って自ら納付するか、若しくは売主に対し手取金とは別にその税額に相当する金員を支払うべき債務を負担したものということができるところ、後に原告らが追徴税を賦課され、これを納付しなければならなくなったのは、被告町等が用地買収費を少しでも低く抑えようとする意図から、ことさらに代金手取額が買取価額であるかのような記載をした買取証明書を発付し、原告らに対しこれによって納税申告をするように仕向けたからにほかならない。右追徴税のうち、本税は、元来、被告町等が負担すべきものであり、被告町等は、約旨に従い、自ら売主に代ってこれを納付するか、売主に対しその税額に相当する金員を支払ってこれを納付させるべきであったところ、これを怠ったため、加算税及び延滞税が賦課されることになったのである。してみると、原告らは、追徴税を納付することによりこれに相当する損害を被ったところ、この損害は、被告町等が右のとおり原告らとの間の売買契約によって負担した債務を完全には履行しなかったことによって生じたものであるから、被告町は原告前田常晴に対し一四三万九二〇〇円、同木内明に対し一三七万九二〇〇円、同濱利一(亡濱圓次郎が昭和五九年五月一三日死亡し、原告濱利一がその財産の全部を承継したことは本件記録中の訴訟手続承継の申立書、戸籍謄本及び遺言公正証書によって明らかである。)に対し一〇万五五〇〇円、被告土地開発公社は原告小島豊に対し一三万九五〇〇円、同徳川道泰に対し一〇二万〇一〇〇円、被告教育施設整備公社は原告鎌田萬寿雄に対し五六万六三〇〇円、同小原ハルノに対し八五万五四〇〇円、同森亮三郎に対し二八五万八七〇〇円、同河野武由に対し一七万四一〇〇円、同山田龍治に対し二四万四八〇〇円、同森田孝夫に対し四四万六四〇〇円、同山田理一に対し二六万〇七〇〇円、同南條広次に対し四一万五一〇〇円、同前野貞夫に対し四四万一二〇〇円及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年四月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

ところで、被告町等は、原告らとの間の公租公課相当額及び契約諸費用の負担に関する約定が売買契約とは別個の密約であることを前提として、このような約定は課税原則に反し許されず、地方自治体の首長その他の職員にはそのような約定をする権限はないこと、若しくはその挙示するような理由から右約定は公序良俗に反するとして、その無効を主張する。しかしながら、前認定の事実によれば、右約定は、売買契約における代金額及びその支払方法についての取決めの一部をなすものであって、これが売買契約とは別個のものであるなどとは到底いえないし、元来、売買契約においては代金額やその支払方法は当事者の自由な意思に基づいて決せられるものであり、被告町等の主張は行政運営上の当否にかかわる事柄であって、純然たる私法上の契約である売買の効力に何の影響も及ぼすものではない。

二  原告らは被告町等に対し、前記当該各損害金のほかに、その一割に相当する弁護士費用相当額の支払を求めるが、弁護士強制主義をとらないわが国の民事訴訟制度のもとにおいては、私法上の契約に基づいて生じた請求権の実現のために要した弁護士費用がその請求権にかかる債務の不履行と相当因果関係にある損害であるといい得るためには、その債務不履行行為の違法性が不法行為と同視できるほどに強度で、損害を受けた者を救済する社会的必要性が高い場合に限られると解するのを相当とするところ、本件においての被告町等の債務不履行は売買契約上の金銭債務を完全には履行しなかったというにすぎず、右のような強度な違法性を有するものとは認められない。したがって、原告らの右の点に関する請求は理由がない。

三  次に、原告らの被告久次米に対する謝罪広告の請求について判断するのに、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被告久次米は、被告町等と原告らとの前記各売買がされた後の昭和五八年四月、対立候補の前町長山本勇との激しい選挙戦のすえ、当選して被告町の町長に就任した者であるところ、同年九月二一日の第一六八回町議会定例会二日目の席上、或る議員から、被告土地開発公社にかかる昭和五七年度の決算状況がいまもって議会に報告されていない理由を質され、また他の議員から、公社の経理に不正があるかのようなデマ、中傷が流布していることを指摘され、これに対する答弁として、被告土地開発公社の経理については、関係書類が整備されておらず、町長の交替に伴い従前の事務担当者の多くが退任してしまっていて実体が十分に把握できないため決算状況を報告できる段階ではないことをるる説明したうえ、公社経理のなかには不審な点もあることの一例として、被告町等による公共事業の用に供するための土地買収に関し「土地開発公社及び教育施設整備公社の公金を以って、町民の方の個人的な税金の支払いにあてておるという事実がございます。」、「おそらく一〇件近い個人の税金、これは所得税であろうかと思いますが、土地買収益にかかる所得税ではなかろうかと思われるものにつきまして、町が一旦一般会計から支払をしてあげておる、しかるのちに、三か月後に公社の方から一般会計への支払をしておるというような実態もあるわけなんです。」との発言をした。

2  右定例会に先立ち、報道機関に対しては、予め被告久次米とかかわりがあるとみられる筋から、議会で町長が爆弾発言をするとの情報が流され、被告久次米の右発言は多くの報道関係者の見守るなかで行われた。そして、議会閉会後、被告久次米は、報道関係者に対しても「なぜ公金で個人の税まで負担して(土地を)手に入れなければならないのか。どうしても分らない。十二月議会までに何とか全容を解明し、今後ガラス張り経理に努めたい。」(徳島新聞記事)と述べた。そのため、被告久次米の議会での発言は、「町長、議会で乱脈経理暴露」、「譲渡税一八〇〇万肩代わり」(徳島新聞記事)として、大きく報道され、地元住民の関心を呼んだ。

3  もとより、被告久次米は、右発言に先立ち、土地買収当時の収入役佐野隆男や総務課長高橋文弘から、用地買収に関し被告町等が売主に賦課される公租公課相当額を負担するに至った事情について説明を聴いてはいたが、町職員のなかには前町長派に属し、新町長には協力的でない者もあり、被告久次米としては町役場の事務担当者の説明だけでは十分に納得することはできなかった。また、町による用地買収については、売買契約書は作成されておらず、公租公課相当額の負担についての約定もすべて売主との間の口約束に止められていたため、関係記録上からこれを確認することも不可能であった。のみならず、被告久次米は、もともと、公共事業の用に供する土地を買収するについて、町が売主に賦課される公租公課相当額及び契約諸費用を負担するという買収方式そのものに批判的見解をもっており、そのうえ、このことに関する被告町等の内部における会計処理も不明確というに至って、前町長による町財政運営に対する非難の度合いを強め、あえて、前記のような発言をしたものである。

4  被告土地開発公社の経理問題は、前記定例会の三日目以降においてもとり上げられ、討議された。そのなかで、議員の一部からは町に税金を負担してもらった者の氏名を明らかにすべきであるとの要請も出されたが、被告久次米はこれには応えず、結局、右経理問題は町長の責任において処置し、議会はこれまで以上の関与はしないことで決着をみた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告久次米の町議会定例会での発言は、議員からの質問に対する答弁としてされたものとはいえ、答弁として必要不可欠なものではなく、その動機には町議会の場で、ことさらに前任者である山本町長当時の町政運営を批判しようとする意図があったことは否定できない。また、右発言は事実に反するものとはいえないが、物事の一面についてしか触れておらず、しかしながら、そのために、結果的に被告町等に対し土地を売り渡した原告らが一般町民に対する関係で被告町等から不当な利益を得たかのような疑いの目を向けられ、気まずい思いをしたことがあるとしても、右発言の内容自体は、ことさらに原告らの名誉を毀損するというものではないし、発言の場所、発言に至る経緯及び発言の内容等に照らすと、被告久次米の右発言は原告らに対する関係で不法行為を構成するに足りる違法性を具備しているということもできない。したがって、原告らの被告久次米に対する謝罪広告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  よって、原告らの請求は被告町等に対し前記追徴税納付にかかる各損害金とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその範囲でこれを認容し、被告町等に対する弁護士費用相当額の損害金請求及び被告久次米に対する謝罪広告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 山田貞夫 宮本初美)

〈以下省略〉

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